ド―ヴィルDeauvilleのようにゴージャスでもなく、南仏のように陽光降りそそぐ華やかさがあるわけでもありませんが、それがかえって町に隠れ家的な趣を与えています。
もともとカブールは、海水浴のさかんな夏の避暑地として栄えました。パリや地方のブルジョワたちがこぞって別荘を建て、その建物の美しさを競い合ったのだそう。なるほど、カブールの町に降りたつと、見事なバルコニーを持つベルエポック様式の家々や、どの時代のどの地方とも分けがたい、けれど魅力的な建造物が、町のそこここに見受けられます。
折衷様式?の美しい建物
カブール映画祭の舞台にもなるGrand Hôtel
喘息を患った10歳のマルセル・プルーストMarcel Proustが、養生をかねて避暑に訪れたのもカブールでした。その後もプルーストは1907~14年のあいだ毎夏この町を訪れ、代表作『失われた時を求めてÀ la recherche du temps perdu』のインスピレーションを得たと言われています。作品内に出てくる架空の町バルベックBalbecはカブールのことであり、また語り手の恋人アルベルティ―ヌAlbertineとの顛末は、避暑中に雇い入れた実在の運転手がモデルなのだとか。
プルーストとこの運転手は実際関係をつむぎ、彼が亡くなる1914年まで続きました。運転手の死後、プルーストがカブールの町を訪れなくなったのも、深い思いがあったからこそかもしれませんね。カブールの浜辺の遊歩道はマルセル・プルースト通りla promenade de Marcel Proustと名付けられています。
マルセル・プルースト通り(遊歩道)
昨年のカブール映画祭の折には、祭典の30周年を記念して、この遊歩道に「愛の子午線le Méridien de l’amour」という名のモニュメントが造られました。五大陸を表す5つのポールに、全部で104もの言語で「愛」という言葉が書かれています。潮風の遊歩道で、さまざまな「愛」の言葉を探してみるのもロマンティックですね。
映画祭のみならず、さまざまな映画の撮影地としても人気のカブール。最近では日本でも大ヒットした「最強のふたりIntouchables」のロケ地として注目を集めました。
パリからのアクセスはド―ヴィルDeauvilleを経由し、電車とバスで約3時間。また、この春からは、パリとカブールをダイレクトに結ぶバスが運行を開始しました。現在運行日は金~日の往復に限られますが、運賃は11ユーロと格安です!
パリからの週末旅のデスティネーションに、またノルマンディー地方周遊の一地点として、ロマンティックな町カブールを訪れてみませんか?