そのうちの1件はストラスブールStrasbourg。1988年にはすでに「ストラスブールのグランディルStrasbourg, Grande-île」として、旧市街の登録がされていましたが、今回ノイシュタット地区Neustadtの登録拡張がかない、全域が世界遺産登録された初めての市となりました。
ストラスブールの旧市街、プティット・フランス
ノイシュタットとは新市街のこと。1870~1918年、アルザス地方がドイツに併合されている間に造られた、「新しい町」です。広い直線道路を中心にした町並みに、ネオゴティック様式の教会や重厚な建造物。そして住宅街にも、その機能的で美しいファサードやバルコニー、道路と建物をへだてる小さな前庭に特徴を見ることができます。このエリアを散策するなら、ライン宮殿Palais du Rhineを臨むレピュブリック広場place de la Républiqueからスタートし、リベルテ通りav. de la Libertéを東へ。途中イル川とアール川の分岐点にサン・ポール教会l’église St-Paulを見ながら、ユニヴェルシテ広場place del’universitéへと渡り、美術館や動植物園、大学などが点在する一帯へと歩いていてはいかがでしょうか。ノイシュタット独特の住宅街を見るなら、オブセルヴァトワール通りrue de l’observatoireがおすすめです。
ライン宮殿
威容を誇るサン・ポール教会
フランスとドイツが国境のアルザス地方を巡って哀しい歴史を繰り返したのは周知の事実。ストラスブールはこの地方の首都として、つねに混乱の中心にありました。普仏戦争時、勝利したドイツ皇帝ヴィルヘルム1世が、帝国の威信をかけてストラスブールの町を3倍まで大きくし、その時に造られたのがノイシュタッド地区だと言われています。仏独の過去の対立、そして現在の和解のシンボルとしての価値が、今回の登録拡張につながったのは明らかです。
このエリアにはほかにも欧州議会Parlement européenや、欧州人権裁判所Cour européenne des droits de l’Hommeなど、ヨーロッパの重要機関が置かれています。仏独の協調体制がヨーロッパにとっていかに大切かを忘れぬよう、係争地であるこの地に建てられたと言われています。また、この春にはライン川にトラムの橋が架けられ、ドイツの町ケールKehlとストラスブールの町が結ばれたのも大きなニュースになりました。
独創的な欧州議会の建物
旧市街のイル川の河畔から遊覧船に乗ると、ストラスブール数百年の歴史が、川の流れとともに見てとれます。中世の木組みの家が建ち並ぶ、童話の世界のような風景から、重厚なドイツ風の町並み、そしてガラス張りの現代建築の欧州議会……。フランスとドイツを行き来した町ストラスブールは、ヨーロッパ都市の機能をそなえ、いまや世界遺産都市となりました。パリから鉄道で約2時間半、でもドイツを経由してみるのもいいかもしれません。フランクフルト空港から、ルフトハンザ航空がストラスブールまでバスを運行していて便利です。